桃園の誓い
「ずいぶん、置き去りにしてしまったよな。心が痛いよ。
もし、まだそこで、健気に待っていてくれたら。
君を助けに行くよ。きっと、うまくいく。」
今日は朝から長い事、庭の手入れをしていた。
落ち葉を集めて、雑草をやっつけて、枝を切りまくる。
虫に差されて、気が滅入りそうになっても、庭仕事。
すべては、UFOの下で、待ちくたびれている桃の木を
この庭に、移すためだけに。
おおよその移せるスペースの目安が付いた庭を眺める。
ふたりで、庭の一角に桃の木があるという映像が浮かぶのか、
その美しい庭を眺めて、一杯飲みたいね♪と、微笑んでいる。
桃の木が生きている。「うまくいく」と、確信をしている。
そして、覚悟を決めて、桃の木が生きているのか確かめに行く。
夕日に染まる町を並んで歩く。空気も香りも変わってはいない。
中学校と隣り合わせの「背の高い木々に覆われた公園」の横の
細い道から、わりと広いバス通りに出る。
懐かしいほど遠くない道。向こうにバス会社が見えはじめた時。
「まだ。あるのかな。」と、珍しく不安そうな表情の彼女が、
僕の手をそっと握った。
僕は、無言で彼女の手を握り返している。
「怖い夢を何度も見たの…。桃の木が切られちゃった夢。」
交差点を左に曲がる。見慣れた景色。時が止まっている。
リサイクルの工場も、ガードレールも、駐輪場も、ベンチも。
薄暗い空を見上げれば、UFOが在りし日の農園を見守っている。
少し寒くなってきた11月。きっと、ふたりの願いはひとつ。
月明かりもない。流れ星もない。ロマンチックでもないけど、
桃の木は、あの日と同じ場所で、無事に生きていました。
物事を動かすことには、とても時間がかかる。
思い出の根付いた桃の木と、これから、ずっと秋冬春夏と。
ふたりの庭で、季節をともに、暮らしていくためには、
もう少しだけ、時間がかかる。きっと、イメージ通りになる。
「うまくいく」この言葉、僕は大好きです。
でも、そこまでゆっくりもしていられない。
「うまくいく」ために少しペースあげなきゃね。
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